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≪猫>少女>世界>天使の着物≫

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 猫の“トゲヌキ”は、その少女との出会いを知らなかった。
 気がついたときから少女と一緒だったから。
 生まれた時から一緒だったのか、もしくはどこかに捨てら
れていたのを拾われたのか、実はトゲヌキは旅の非常食とし
て市場で買われたのか……少女はトゲヌキのことを語らなかっ
たし、もちろん自身のことも語らなかった。

 だから、少女は“少女”だった。

 少女は旅をしていた。
 なにが目的かも知らない。やはり語らないから。
 もう何年も何年も、少女とトゲヌキは目的地に着いたこと
がない……いや、もしかしたら着いていたことがあったのか
も知れないが、やはりすぐに旅が始まった。
 少女は村から街、街から都、そしてまた村へと旅をする。
時には酒場で踊り、時には布を織り、時には狩りをして、パ
ンとミルクとビスケットと、わずかな金貨を得ていた。
 パンとミルクは、トゲヌキと少女で半分に分け合った。
 ビスケットは保存食として。
 金貨は食べられないので少女が管理している。キラキラと
綺麗だから宝物なのだろう。

 少女は永遠と旅をしていた。

 ある時に気づいたのだが、少女はあきらかに成長していな
かった。多くの人間を見てきたし、そもそも猫だって大きく
なるのだから分かる。トゲヌキがそういった人間の生活を理
解するころになっても、少女は出会ったころの背と体重と体
温を維持していたのだ。

 だから旅をするのだろうか?

 そう考えたこともあったが、トゲヌキの言葉は少女にとっ
て「にゃー、にゃー」としか聞こえないらしいから、答えを
もらったことはない。
 まぁ、あまり問題はない。
 なぜなら少女は、そもそも言葉を発することが出来ないの
だ。
 トゲヌキという名前も、実際は少女と一時期だけ道連れに
なったツカサという女の子がつけてくれた名前だ。素晴らし
いネーミングセンスだ。命名されてから2週間ほど涙がこぼ
れた。しかし慣れとは恐ろしいものだ。呼ぶモノもいないか
らマシなのだろうが……それでもトゲヌキとは……。

 話を戻そう。

 言葉をかけてはくれないけれど、代わりに少女はトゲヌキ
をやさしく撫でてくれる。時に唇を微笑ませながら、時に涙
を浮かべながら、時に目を閉じながら。
 もしかしたら、まさしく正しい理由として、トゲヌキは愛
玩動物として飼われているのかも知れない。それならば猫冥
利につきるではないか。

 だからトゲヌキも旅をする。
 1匹と1人で旅をする。
 どこまでも、どこまでも、どこまでも。
 ところで、その“旅”の話をするには、つまりこの“世界”
のことを話しておいたほうがいいのだろう。いいはずだ。

 この世界には“夜”しかない。

 空には常に無数の星と、15個の満月と半月と三日月が浮
いている。月の割合はそれぞれ2:6:7だ。スピード比も
同じくらいだろう。
 昔はもっとたくさんの月が浮かんでいたらしいのだが、何
十年かに一度、月同士がぶつかって欠けていってしまうのだ。
これは市場で人にぶつかるごとに、少女の持っていたはずの
金貨が減っていく現象に非常によく似ていると思う。
 で、そのぶつかった月の欠片が地上に降ってくると、それ
を求めてたくさんの旅人が現れる。

 月は非常に美味なのだ。

 しかし、この夜しかない世界で、夜のことを理解している
猫と人間がどれだけいるのか知らないが、幸いなことに、ト
ゲヌキと少女は“昼”を知っていた。
 ツカサから聞いた異国の話なのだが、そこには“昼”とい
う世界があるらしい。明るく、暖かく、世界そのものが生き
ているのだそうだ。
 いつか、トゲヌキも“昼”に行ってみたいものだ。

 けれど、どうやら少女の目的地は“昼”ではないらしい。

 では何処に?
 それは最初にも説明した通り、トゲヌキは知らない。
 知る必要もないだろう。
 トゲヌキには分かったから。
 少女はきちんと目的を持っていた。
 踊り、声なく歌い、布を織り、金貨を貰ってから減らし、
パンとミルクを食べて、ビスケットをたまに食べて、月を見
上げてトゲヌキをなで、たまに水浴びをして、天使の着物と
いう高価なぼろ布をいつまでもまとって、靴を履き、いつも
俯き気味に歩いているけれど、きれいなモノを見つけると今
度は足元が不注意になる……。

 つまり、こういうことをするには旅をするしかないのだ。

 さて、長くなってしまったが、この旅には始まりも終わり
もない。だが、ないものはそれだけなので安心して欲しい。
たった2つがないことに我慢出来ない人もたまにはいるが、
トゲヌキは知らないことを語ることは出来ないので我慢して
欲しい……前提が間違っているのか?
 まぁ、あまり問題はない。

 空飛び賢者とアンコウ総脱線事件(誤字にあらず)。
 月の揚げ物レシピ。
 ツカサ。
 千本ヒンズースクワットラジオ放送。
 時計覚まし時計探索。
 夢つづら。

 これらも、旅をしているから実体験し、見聞し得た物語だ。
 最初の2つが我慢出来ない人も、これらの話を聞けば、始
まりも終わりも忘れてしまうだろう。そうだろうそうだろう。

 ところで1つだけ不思議なことがある。
 なんでトゲヌキはこんなことを考えているのか。
 つまり、今までの人生の走馬灯というやつに近い。
 ふと気が付くと、少女は大切な天使の着物を火種にして、
その火でナイフと水をいれた鍋を熱していた。そして、トゲ
ヌキの手足を縄で縛り、近くの木の枝にぶら下げているのだ。

 はて?

 これはどういったことであろう。
 まぁ、あまり問題はない。
 旅をしていると、こういった不思議な出来事はよく起こる
ことなのだ。
 上手く頭が働いていないようだ。
 危険信号にビリビリと髭が揺れるのだが、せっかくの天使
の着物が燃えていることのほうが気にかかった。少女の目に
は煙が染みているのか涙が浮かんでいる。
 そういえば、ここ数日なにも食べていなかった気もする。

 さて。

 トゲヌキは眠ることにした。
 それでは皆さん、ごきげんよう。

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“夢” “戻る” _

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