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 ≪夏に吹いた北風≫

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  【序幕】

   暑い。
   暑い夏。
   暑い7月の放課後。

   地方の公立高校ってやつは本当に貧乏で、クーラーが設置されているのは職員室と、この
  パソコン教室だけ。
   これによって、夏になると『パソコン同好会』は部員が激増し、2学期の生徒会で部へと
  昇格する。冬になれば強制的に幽霊部員が削除され、また同好会に戻るのだが、これで部費
  が増えるものだから、元の部員達も彼等が少しくらい騒いでも大目に見てくれるのだ。
  「良い循環だね〜」
   ボクはその当事者として部に貢献し、文明の利器に恩恵を受けていた。
   カーテン脇の日陰に椅子を動かして、見ているだけで汗が出てきそうなスポーツ少年を見
  下ろす。爽やかな掛け声と、カンだの、キンだの野球部の立てる音を聞くと、夏が訪れたこ
  とを実感できる。
   体が溶けるような陽射しは嫌いだが、夏の持っている雰囲気は好きだ。
  「おーい晃!」
  「居ないよ」
  「思いっきり返事してんじゃねぇよ。ちょっと来いって」
   物でも投げられそうな口調だったので、仕方なくボクは椅子を立った。
  「……お前等〜、居候らしく少しは静にしろって」
   不良と言うか、ただ粋がってるだけの男どもの輪に首をつっこむ。ボクと同じように、全
  員がだらしなく制服を着崩している。
  「なにやってんの?」
   手近な野郎の肩に肘をついて首を傾けた。
  「夏がくるとする話だよ」
  「怪談?」
  「色気がないなぁ晃。夏といえば燃える恋の季節だろ」
  「つまり猥談な」
   ストレートにバカが笑う。
  「君等はね〜。春にも新しい恋の季節だって言ってたぞ……こんなとこでバカ話してる暇が
  あったら外でも走って男を磨いてこい」
   ボクは「呆れた」と彼等を追い出すように手を振り、近くの机にそのまま腰掛けた。
   その言葉に騒ぐバカどもはほっといて部屋を見渡す。
   流石に土曜日とあって人数は少ない。せっかくの半ドンを、こんなところで雑談して潰す
  のは勿体無いのだろう。
   偽物の部員が四グループ二十人弱。本物の部員は二人だけ。そのうちの片方――凛々
  さの代名詞のような羽山ツカサは、ボクの小学校時代からの幼なじみだった。
   ツカサはこちらに視線も向けてないのに、軽く手をふって挨拶してくれる。
  「なぁ晃。お前の初恋の相手って誰だったんだ?」
  「えっ!?」

   ガチャ!

   ボクの過剰な焦りに気づく前に、部屋中の視線が一点に集中する。
  「失礼」
   その先では、ツカサが床に落ちたマウスを拾い上げていて、きちんと皆に向き直ってから
  謝罪した。
   周りの連中は「脅かすなよ」などと口にしていて、コードで結ばれているマウスが床に届
  くはずないことに気づいていない。
   ツカサはわざわざコードを抜いてから落したのだ。
  「……初恋の相手だっけ?」
   今度は、意識して照れた表情を浮かべてボクは口にした。
  「やっぱり片思いで終わっちゃったか?」
  「どうかな……ちょっと、複雑な展開、かな?」
  「おー!?」
   ボクの意外な返答に、皆が歓声を上げる。
  「え、なに、話すの? ちょっと長いよ?」
  「いいから、いいから!」
   今や、彼らだけでなく部屋中の人間がボクの一挙動に注目していた。ツカサも椅子を回転
  させて、ボクの話を聞いている。
   一瞬の静寂にグラウンドの音がやけに響いた。
  「……あー、仕方ないなぁ」
   わざと気を持たせるように言って、ボクは咳払いをした。

   暑い。
   暑い夏。
   暑い7月の放課後。

  「それは、ボクが中学生になって、始めての夏休みの話――」

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    続きを待ってくれている人などいるか分からないが、
    長いのは定期的に更新して行こうと思います。
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