≪30センチの縮め方・ショート≫
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三十センチという距離を馬鹿にしてはいけない。
僕はこの距離を縮めるために必死であり、全力
「どうしたの?」
そういえば、彼女と初めて出会ったのも雨の日
雨が降り出す。
(そうか……)
僕は持っていた鞄の中に手を突っ込む。
了
であり、無力である。
何が言いたいかというと、彼女との距離なので
ある。なんだそれはとお思いだろうが、けっして
僕や彼女が古い人間なのではない。それだけは、
最初に断っておこう。
当の本人――夕紀が僕の顔を覗きこむ。
「いや、なんでもないよ。ちょっと天気が悪いな
と思っててさ」
馬鹿な考えをごまかしたのだが、空は本当に、
いつ雨が降ってもおかしくない黒さだった。
二人で散歩するには、むかない天気だ。
だが、夕紀は機嫌が良い。
「私ね。雨の時に傘をささないの」
「えっ! 君も?」
驚いた。
まさか僕と同じ事をしている人が、こんな身近
に居たなんて。
「奇遇だね、僕もそうなんだ。理由はよく分かん
ないけれど、気持ち良いんだよね」
「うん」
夕紀が静かに頷く。彼女はいつも落ちついてい
るのだ。
だった。その日は、すごい土砂降りで、さすがの
僕も傘をさしていた。
だけど、彼女は濡れたまま立っていた。
とても綺麗だった。
『風邪ひきますよ』
そう言って傘をさしだしたが、夕紀は静かに、
それを拒否したのだ。
その時には色々とあったのだが、なんだかんだ
で僕と夕紀は、現在のところ七割ほど恋人だった。
二人とも空を見上げたまま足を止めた。
三分ほどした頃。僕に神様が降臨した。
それを不思議そうな顔で夕紀が覗きこむ。
「何だと思う?」
彼女は静かに首を横に振る。
僕も静かに微笑んでそれを取り出した。
「――傘」
「うん。折り畳みだけど」
「持ってたの?」
「一応ね」
傘を開いて夕紀のほうに傾ける。
「入る? 風邪ひきますよ」
少し悩んだ後、彼女が僕との距離を三十センチ
縮める。
「何か良いことありましたか? 顔がにやけてま
すよ?」
「うん。今までで一番嬉しいことが起こったから」
「いいえ」
夕紀が否定の言葉と同時に、僕の肩に手を乗せ、
僕と向かい合うようにする。
「――それは二番目です」
背の低い夕紀が、いとおしく背伸びするので、
僕は少し屈んであげた。
あぁぁぁ〜。
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なんだか、もう……。
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“戻る”
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